尾道市の民話(仙入峠)・28

 今日は仙人の話をしようかのぅ。

 栗原町と美の郷町の境はのぅ、今じゃ開けて道もええ(良い)のができて広うなって、家もぎょうさん(沢山)できたがのぅ、昔は村と村の分水嶺じゃった。
 分水嶺のてっぺんに大きな松の木があったんよ。

 むかしのぅ、その松の木に、となり村の一人の若者がよう登っておったんよ。
 「へえ、よう見えるのぅ、にぎやかな町が見える。あ、人がいっぱいおる。わしもいっぺん尾道の町に行ってみたいもんじゃ」
 若者は木に登っては、はるかむこうに見える尾道の港町にあこがれていたんじゃ。

 「おっかあ、わしは町へ行きたいんじゃ。行ってもええか。町でえっと働いての、甘いもん買うて帰ってくるけぇ。」
 若者は母親に何べんも頼んだんじゃ。
 「いけんいけん、町は遠いし、お前なんか行くとこじゃにゃあ。町にゃあ悪さをするもんがえっと(大勢)おる。だましたり、だまされたりしてのぅ。それより、うちの田畑の面倒をようみてくれや」
 母親は、いつもこう言って、町に行かさんようにしておったんよ。
 
 ある日の事、とうとう若者は母親に黙って家を出たんよ。
 松の木のところへ来ると、
 「おっかあ、すまんのう、わしはやっぱり町へ行く。必ず帰ってくるけぇ。
 そう言うと、古びたワラジを一つ松の木にくくりつけたんよ。
 それから町の方へ向って下っていったんじゃ。

 若者はそれっきり帰ってこんかった。
 母親は松の木のところへ来て、えっとえっと(たくさんたくさん)泣いたんよ。
 その泣き声を聞いたのが、ひとつ山を越えた深い森に住んでいた仙人じゃった。
 仙人は、松の木にやって来た。
 「おお、これがおっかあを悲しませたワラジが。おっかあたちをこれ以上泣かさんように考えてやらにゃあ」
 仙人は考えたんじゃ。
 「こりゃあ、松の木よ、わしは仙人じゃ。すまんけどいっぺん雷に打たれてくれ。お前のひどい姿を見たら、この峠を越えて町へ出ようとする者が、少のうなるかもしれん。それからわしはこの木に住む天狗になる。人が怖がって近づかんようにのぅ」
 そう言うと仙人は雷を呼び、松の木をあわれな姿に変えてしもうたんじゃ。
 それから木のそばに小さな小屋を作って住んだんじゃ。

 町にあこがれて村を出ようとする若者がこの峠に来ると、
 「誰じゃ、ことわりもなしに、この峠を越えようとする者は、わしはこの松に住む天狗じゃ。用なき者は、この峠を越えるな」と大きな声がしたんじゃ。

 いつのころかのう、いつの間にか仙入峠(せんにゅうだお)と言うようになったんじゃ。
 仙人がおって人の出入りを見張っていたことから呼ばれるようになったんじゃろう。
 
 今も「仙入峠」の名は残っておるがのう。
 (~尾道民話伝説研究会発行「尾道の民話・伝説」より)
 

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