尾道市の民話(鉄鉢)・27

 今日は漁師さんの話しをすることにしようかのう。

 「今年は、再々嵐がくるのう」
 海に暮らす漁民たちは、海に魚を獲りに出られないので、毎日天を仰いで嘆いていたんよ。

 時はのう、江戸の中頃のことじゃった。
 暑い暑い夏が過ぎ、もう秋も半ばになったのに、南からくる嵐は治まらず、みんな浜辺に集まっては、どうしたもんかと話し合っておったんよ。
 風雨が吹きすさぶ夜のことじゃった。
 遙か北の空に、赤い火の玉の燃えるのを見た者がおったんじゃ。
 「たいへんじゃア、あの火の玉を見てみい」
 大声に驚いて人々が家から飛び出して来たんじゃ。
 そして、雨の中、浜辺に集まった人々は「これは何かの祟りかもしれん。みんな祈るのじゃ」と言う村一番の年寄りの言葉に恐れて、祈りはじめたんじゃ。
 みんなは、毎日一心に平穏祈願を続けたんじゃ。
 ある夜のこと、みんなの前に現れたのは、星居寺(ほしのこてら)の御本尊「虚空蔵菩薩」じゃった。
 みんなは、なおも懸命に平穏祈願を続けたんじゃ、するとどうじゃろう。
 不思議と嵐は治まり、漁に出られるようになったんよ。
 漁民たちは大喜びじゃった。
 さっそく馬5頭に米俵を積んで、村人たちの代表にひかせ、神石の山の中にある星居寺目指してお礼参りをしたんよ。
 
 星居寺に着いた一行は、本堂でお坊さんを導師として、御本尊に厚くお礼の読経を奉納したんよ。
 その日はこの寺の庫裡にに泊まり、村の人々と信仰の話しをして、この寺の繁栄振りや参詣する人々の多いことに感銘して帰っていったんじゃ。
 
 ところが、一行の中に与助という不心得者がいて、山を下りるとき、この寺に何か金目のものはないかと探したんよ。
 そうして、きれいな鉄鉢を見て、こっつそりと懐に入れ、何食わぬ顔で持ち帰ったんよ。

 しばらくして、与助は熱病にかかり、今日にも命が切れるか、明日までもつかという有様じゃった。
 与助の夢うつつの中に、以前浜辺でお姿を見た「虚空蔵菩薩」が現れたんじゃ。
 「ああ、わしが悪う御座いました。つい出来心で鉄鉢を持ち出してしまいやんした。こらえてつかあさい」
 あくる日、目覚めた与助は、家族に自分のやったことを打ち明け、さっそくその鉄鉢を千光寺に持参させ、与助の犯した罪を話し、御仏に許しを請うたとのことじゃ。
 与助の病が治り、再び漁に出られるようになったということじゃ。

 鉄鉢は千光寺に寄進されたか、星居寺に返されたか、むかしのことじゃけん、だあれも知らんそうじゃ。
 (尾道民話伝説研究会発行「尾道の民話・伝説」より)

 人間正直に生きていかにゃいけんいうことじゃ。
 今日の話しは<これで終いじゃ>

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