尾道市の民話(長者かどはんや)・10

 町のかどっこに吉兵衛さんの家があったんじゃ。
 吉兵衛さんは心やさしくたいへんな働き者じゃったんじゃが、とても貧しい暮らしをしていたんじゃ。
 あちこちでペッタンペッタンと餅つきの音も聞かれる暮れのことじゃった。
 「ねえ、うちの餅つきはまだかのう」
という子供たちの声を聞きながら、吉兵衛さんはすっかりこまってしもうたんよ。
 「うちじゃ餅なんてとてもつけん、どうしょうかいの」
 頭をかかえて座り込んでいた吉兵衛さんは「そうじゃ」とひざをたたくと、すっと立ち上がっつたんよ。
 そうして、吉兵衛さんは畑へ行ったんよ。そこで吉兵衛さんは大根を抜いてきて、輪切りにしたんじゃ。
 丸くて真っ白大根の輪切りは、餅によく似ていたんじゃ。
 「うん、これを元旦のお雑煮のかわりにしよう」
 そう決めて吉兵衛さんの家はお正月を迎える仕度をしたんじゃ。
 餅が無くてもみんな仲良く、正月を迎える話に花を咲かせて大晦日の夜を過ごしていたときのことじゃ。
 コトコトと弱々しく戸をたたくような音がしたんじゃ。風だろうと一度は知らぬ顔をしていたが、コトコトと音が続くので、誰かいるかもしれないと、吉兵衛さんがそおっと戸を開けてみると、そこには師走の風に吹かれながら、みすぼらしい老人が立っていたんじゃ。
 老人は、「もう3日も何も食べていません。何かを恵んでください。そして今晩一晩だけ泊めてください」と手を合わせたんじゃ。
 吉兵衛さんは情け深い人じゃったんで、その老人を中に入れ、明日食べようと思っていた大根を炊いて食べさせてやったんじゃ。
 「明日が正月じゃいうのに、うちじゃぁ何のご馳走ものうて、相すまんのぉ」
 吉兵えさんはそう言いながら、土間にムシロを敷いて老人を寝かせてやったんじゃ。
 夜半、ふと目を覚ました吉兵衛さんは、老人の様子がおかしいのに気づいたんじゃ。
 「じいさん、さむかろうのぉ」
 と老人の肩先をそっとさわった吉兵衛さんの指先にヒャーと冷たいものが走ったんじゃ。
 「じいさん、じいさん」
 と吉兵衛さんは老人をゆり動かしたが、老人はすでに死んでいたんじゃ。
 「こんなあばら家じゃのうて、食べ物もうんとあるところに泊まっておれば、じいさんは死なずに済んだじゃろうに、すまんことをしたのう」
 吉兵衛さんは、かど口に薪を組み、老人を火葬にしてやったんじゃ。
 元旦の朝、東の空が白むころ、お骨を拾ってやろうと吉兵衛さんが灰をかきわけてみると、なんとお骨は一つもなく、かわりに小判が出てきたんじゃ。
 こうして吉兵衛さんは長者になったが、情け深くよく働いたんで、家は末長く繁盛したということじゃ。
 まちの角で繁盛したんで、後に「かどはんや」という屋号になったということじゃ。
 人を助けるということは、本当に大事にせにゃいけんいうことよのぉ。
 これで長者かどはんや」の話はおわりじゃ。またのう。
 (参考~尾道民話伝説研究会発行“尾道の民話・伝説”)

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