尾道市の民話(玉の浦の地蔵)・13

 むかし、たいそう貧しい夫婦がおったんじゃ。
 夫婦は食べ物にも困っておってのう、毎日を暗い気持ちで暮らしておったんじゃ。
 そんなとき、女房が身ごもったんじゃが、夫婦にとってはこんなに嬉しいことはなかったんよのう。 
 しかし、食べ物のない生活は続くわけで、男は頭を抱え込んでしもうたんじゃ。
 「こんな暮らしが続いたら、腹の子は育たんかもしれんのう」
 困り果てた男は、とうとう寺のお供え物を盗んで女房に食べさせ始めたんよのう。
 来る日も来る日も男は盗みをはたらき、女房のおなかの子は順調にそだっていったんじゃ。
 そしてのう、女房はまるまると太った可愛い男の子を産んだんじゃ。
 赤子が誕生したその日も、男は寺へお供え物を盗みに行き、ついでに紙に包んだままのお賽銭までも盗んだんじゃ。
 ところがのう、賽銭を包んであった紙に
 「子供の寿命は十歳。 玉の浦に沈む「と書いてあったんじゃ。それでビッツクリした男は大急ぎで寺に戻って、今までの罪を深くおわびをしたんじゃ。
 「なんとわしは罪深いことをしたんじゃ」
 男は反省し、こころを改めての帰り道じゃった。
 お地蔵さんにつまづいて転んでしもうたんじゃ。
 「アア罰があたったんじゃ」
 男は痛む足を擦りながら、お地蔵さまを家に持ち帰って大切に祀り、子供の無事を祈り続けたんよ。
 それから十年、子供はすくすくと育ち、夫婦にとって何にもまさる宝物になったんじゃ。
 ところがのう、ある日のこと、夜になっても子供が帰ってこんかったんじゃ。
 「寿命は十歳。玉の浦に沈む」
の文字が男の頭の中をかすめたんじゃ。
 男はもう観念してのう。
 きっと玉の浦でおぼれ死んだにちがいないとおもったんじゃのう。
 女房に葬式の用意を言いつけて、玉の浦へ急いだんじゃ。
 男は声の限り子供の名を呼びながら、岸壁沿いに走り回ったんよ。
 するとのう、月明かりに照らされて、岸に何か黒いものがぶら下がっているのが見えたんじゃ。
 男は、もしや、と思って近づいてみると、やはりそれは自分の子供じゃったんよのう。
 縄でくくられ、宙吊りになっていたんじゃ。
 「おい、しっかりせえよ。もう大丈夫じゃけぇ」 
 男は子供をはげましながら、縄を手繰り寄せたんよ。
 「どうしてこんなことになったんじゃ」
 ほっとして、嬉しさのあまり、男は子供を抱き寄せて大声で泣いたんじゃ」
 もちろん、子供も一緒に泣いたんじゃ。
 しばらくして、落ち着きを取り戻した男は、子供がくくられて宙吊りになっていた縄のもう一方の端を見て、ハッと驚いたんよ。
 なんとその縄の端には、お地蔵さんが巻きついていたんじゃ。
 男と子供は何度もお地蔵様に手を合わせて家に帰ったんじゃ。
 葬式の仕度をしていた女房は、子供が元気な姿で帰ってきたのを見て、そりゃ驚いたんよう。
 「アア良かった、良かった。早よう家のお地蔵さまにもお礼を…」と、3人がお地蔵さまを安置している所へ行ってみると、不思議なことにお地蔵さまがおらんかったんじゃ。
 男は大急ぎで玉の浦へ走り、子供を助けてくれたお地蔵さまを持ち帰って灯りの下でよく見ると、なんとそれは毎日拝んでいたお地蔵さまじゃったんじゃ。
 ありがたいお地蔵さまのご利益のおかげで命びろいした子供は、その後何事もなく成長し、玉の浦一の信心深い人になり、人々のために尽くすようになったそうなんじゃ。

 これで今日の「玉の浦の地蔵」さんの話は終わりじゃ。
 また次に話すけぇのぉ。
 (参考~尾道民話伝説研究会発行“尾道の民話・伝説”)
 
 
 

 

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