尾道市の民話(般若が池)・29

 この前は仙人の話をしたけぇ、今日は大蛇の話しをしようかのぅ。

 むかし、原田村有光にある大きな池に、一匹の大蛇がすんでいたんよ。
 大蛇は夜になるとのぅ、村に出てきて、作物を食い荒らしたり、家畜を襲っていたんじゃ。
 村人たちは、この大蛇を退治できたら、村がどんなに平和になるかと思っていたんじゃが、池の主になってしもうとる大蛇は恐ろしゅて不気味じゃったんよ。

 それに「おろち」とも呼ばれ、神代から生き続けている大蛇を殺せば、どんなたたりがあるかと不安じゃったんよ。
 村人は、誰かが退治してくれればよいがと、手をこまねいているだけじゃった。
 池のすぐ近くに住む五平の家の被害は、たいへんなものじゃった。
 作物はもちろん、鶏、ヤギ、牛までも食われてしもうて、泣くに泣けんありさまじゃった。
 耐え切れなくなった五平は、とうとう大蛇退治を決意したんよ。
 幸いにものぅ、五平は村一番の力持ちじゃった。

 その日から、五平はかぶら矢を手にして軒下に身をひそめ、昼間は姿を見せん大蛇を夜通し見張りつづけたんじゃ。
 そんなある夜更けのことじゃった。
 水面がすさまじい音をたてて割れ、女の人が現れたんじゃ。
 女は、スルスルと泳いで水際に身を寄せると、美しく長い黒髪をくしでときはじめたんよ。
 錦の衣のすそを長く引いたその姿は、怪しいほどの美しさじゃった。
 身のこなしのおりおりに、鈍い光できらめく衣は、闇の中に幻のように浮び上がっておったんじゃ。
 五平は、惑わされないように、懸命に目を開きながら、それこそおびただしい鱗でおおわれた大蛇の尾に違いないと思ったんよ。

 女の姿を楽しんでいた大蛇は、すっかり気を許していたんよ。
 このときじゃ!
 五平は、青竹を割って、たすきがけにし、きりきりとかぶら矢をつがえたんよ。
 五平のうらみつのった執念が、今こそ大蛇を射抜こうとしていたんじゃ。
 豪力をこめた矢は、大蛇に見事に命中したんよ。
 
 村は平和になって、村人たちは心から五平に感謝し、その手柄をたたえたんじゃ。

 ところがその後、五平の家族の一人が疫病にかかってしもうたんよ。
 病気は次々にうつり、一家滅亡かと思われたんよ。
 五平は、わらをもつかむ思いで、八幡さまへ病よけの祈願をしたんじゃ。
 巫女が神のお告げを申すには、「大蛇を射殺したかぶら矢を神社に奉納すればよい」とのことじゃった。
 
 やはり大蛇のたたりがあったのかと、五平はさっそく弓矢を八幡さまへ納めたんよ。
 ほどなくして五平の家族は回復したんよ。
 それからというもの、大蛇のたたりがないよう、また五平の手柄をしのぶため、村人たちは池のそばに経塚を建て、般若心経を納め、池を「般若が池」と呼ぶようになったじゃそうな。

 いまではのう、般若が池がなまって「花池」(はながいけ)と呼ばれているそうじゃ。
 (尾道民話伝説研究会発行「尾道の民話・伝説」より)

 

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