尾道市の民話(千光寺山の身代わり松)・14

 今日は千光寺山の「鼓岩」にまつわる話をしようかのぅ。

 むかし、千光寺山の山頂に城があったことは、この前話をしたよのぅ。
 山頂の東北の隅の八畳岩の上にのう、尾道を一目で見渡せる物見櫓があったんじゃ。
 城には美しい姫君がいたんじゃが、戦火もおさまり、平和な日々が続いていたある春のことじゃった。
 姫は満開の桜の花を見つめて、フゥーッとため息をついたんよ。
 「父上、桜の花はあんなに一生けんめい咲いているのに、一夜の雨ですっかり散ってしまいますのね」
 「姫、どうしたというのじゃ。桜の花は、パッと咲いてパッと散るからこそうつくしいのじゃ」
 父君は、姫を力づけるようように言ったんじゃ。
 「そうだ。姫、花見の宴をやろうじゃないか。城下の者達も呼ぼう。さっそく今夜じゃ」
 その夜、千光寺山の桜の木々の下にぼんぼりが灯され、城下の人も三々五々と集まって来て、花見の宴がにぎやかに始まったんじゃ」
 其の中に漁師の若者がいたんよのぅ。その若者は、見事な鯛料理をならべたんじゃ。姫はその料理に心を和ませ、たちまち二人はうちとけていったんじゃのう。
 そして、若者は姫に、月に一度鯛を届ける約束をしたんよのぅ。
 姫の鼓がポンポンと打ち鳴らされ、にぎやかな花見の宴は終わったんじゃ。
 桜の花がすっかり散って、若葉がポツポツと出始めころ、二人にとって待ちに待った約束の日がやっとやって来たんじゃ。
 が、その日はあいにくの強い風と雨、姫は心配でならなかったんじゃ。
 「あの人はこの風雨の中を、小舟を漕いで釣に出たに違いない。鯛がなくても来て欲しいのに……」
 姫の心を逆撫でするように、雨は一層激しくなり、風は吹き荒れ、稲妻が空を真っ二つにさいたんじゃのぅ。
 木の葉のように揺れながら、今にも波に飲み込まれそうな若者の小舟のかげが、姫の頭の中に浮んでは消え、消えては浮かんだんじゃ。
 「神様、どうぞあの人をお助けください」
 姫は祈りながら、鼓を打ち始めたんじゃ。
 鼓の音が雷より大きく響けば、雷が逃げるかもしれないと思わずにはいられなかったんじゃのぅ」
 姫の祈りは空しく、雷雨ははげしくなるばかりじやった。
 姫はとうとう外へ飛び出して、八畳岩の物見やぐらの上に立って、若者の無事を一心に願い、鼓を打ち続けたんじゃ。
 「あの人が波にのまれませんように。あの人に雷が落ちませんように。あの人に雷が落ちるくらいなら、この私に、この私に…」
 ポーンと鼓が一段と大きく打たれたのと、バリバリと雷が落ちたのと同時じゃった。
 姫は雨雲を突き抜けるほど高くそびえた松の木になって、雷を受けていたんじや。
 ポッキリと折れた枝は黒く焼け、枝からコトッと落ちた鼓は、若者を迎えるかのように、山をコロコロと転がっていったんじゃのぅ。
 嵐はおさまり、命からがら鯛を釣り上げた若者は、急いで城にいったんじゃが、姫の姿はなく、物見やぐらの横に枝を焼かれた松が一本立っているだけじゃった。
 すっかり気の抜けてしもうた若者が、フラフラと山を下りて行ってると、山の中腹に姫の鼓が転がっていたんじゃ。
 若者は鼓を抱き上げ、姫の松を見上げながら、いつまでも、いつまでも泣いていたそうじゃ。
 そして、とうとう鼓を抱いたまま、大きな岩になったということじゃ。
 松にからまっていた姫の帯がはらりととけて、岩によりそうようにかかったんじゃ。

 「私たちは一夜にして散る花ではなく、息の長い松と岩になったのですね」
 と二人は語り合ったのではないじゃろうか。
 
 姫の帯は、そのまま岩ひだになって跡を残し、岩は、『鼓岩』と呼ばれ、小石でたたくと、ポンポンと優しく人の胸を打つ音を響かせておるんじゃ。

 これで今日の「千光寺山の身代わり松」の話は終わりじゃが、千光寺山にかかわる話は、結構多いじゃろう。
 次の話は、またにしような。
  (参考~尾道民話伝説研究会発行“尾道の民話・伝説”)

                   物見櫓跡の八畳岩
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  写真右下の四角い穴が、物見櫓の柱穴
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                      鼓 岩 
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