尾道市の民話(千光寺山の鼓岩とお姫さま)・12

 昔戦国の世のころじやった。
 千光寺山には木梨山(現木ノ庄町)城主杉原氏の出城(権現山城)があったんじゃ。
 城の直ぐ南の山道にある大岩は、お姫様や若君のこの上もない遊びになっておったんじゃ。
 大岩は優しい奥方様やお姫様が大好きでのぉ、お城から聞こえてくる琴や鼓の音に、うっとりと聞きほれていたんじゃ。
  コロコロ コロコロ コロリンシャン
  ポン ポンポン ポン ポンポン
 大岩は、毎日が宴(うたげ)のように楽しい気分じゃったんよう。
 特に、ポンポンポンと軽やかな鼓の音に、心が弾んだんじゃ。
 最初は同じように聞こえて鼓の音も、よおく耳を澄まして聞いてると、少しずつ違いがあるのが分かってきたんじゃ。
 「ポンポンポン」と力強く歯切れの良いのは奥方様の鼓の音、「ポン ポンポポン」と優しくてまろやかな音はお姫様の打つ鼓の音なんじゃ。
 ある日、大岩は、城から聞こえてくる鼓の音にあわせて
 「ポン ポンポン」
 と口ずさんでみたんじゃ。とても愉快な気分じゃった。
 こんな気分は初めてだと、それからは毎日、鼓の音が聞こえはじめると、小さな声で「ポン ポンポン」と口ずさむようになったんじゃ。
 「誰かに聞かれていないかな」とそっとあたりを見回したんじゃ。
 「しめしめ、だれもいないぞ」
 今度は少し大きく「ポン ポンポン」
 大岩はだんだん上手になって、誰かに聞いてもらいたくなったんじゃ。
 そんなところへ、奥方様やお姫様、若君が、侍女たちを連れて遊びに来たんよ。
 若君は大岩に上がると、大喜びで「ヨイショ、ヨイショ」と四股を踏んだんよのう。
 大岩は思わず、「ポン ポンポン」と声を出してしもうたんじゃ。
 「あら」みんな不思議に思ったんじゃ。
 確かにそれは鼓の音だったんじゃのう。
 侍女がためしに小石を取って、大岩を叩くと「ポン ポポン」と響いたんよ。
 其の音が、得意満面に張り上げた大岩の声だとは誰も分からなかったんじゃ。
 「まあ」とみんな感嘆の声を上げ、競って大岩を叩いてみたんじゃ。
 「ポンポンポン ポポポンポン」と、軽やかな音が返ってきたんよのう。
 「お母様、この岩を鼓岩と呼んだらいかがでしょう」
 「鼓岩、それは良い名前ですね」
 大岩は、お姫様にとても良い名前付けてもらって大喜びじゃったんじゃ。
 それからというもの、お姫様だけでなく、殿様や家来までもがやってきて、鼓岩を打ち鳴らすようになっつたんじゃ。
 しかし、このような平和な日々も長くは続かなかったんじゃ。
 ある夜、敵が奇襲をかけてきたよのう。不意をつかれて刀や槍を取るのがやっとのありさまじゃった。
 殿様は、奥方やお姫様たちを抜け道からそっと逃がすと、自害して果てたんじゃ。
 城を抜け出たお姫様たちは、暗闇の中を、イバラに足をとられ、石につまずきながら、どうにか鼓岩にたどり着いたんじゃ。
 そうして後を振り返ってみると、城の方角から赤い炎が空高く燃え盛っていたんじゃ。
 「アア、城が燃える。お父様」
 「ぐずぐずしていては追っ手が来ます。 ささ早く」
 侍女に促されて奥方や姫様は泣く泣く足を引きずりながら、鼓岩のそばを通り、ふもとへ下りて行ったんじゃ。
 鼓岩は、あれほど可愛がってくれたお姫様や奥方の落ち延びる姿を見て、胸がはちきれそうじゃったんじゃ。
            ※              ※
 戦から既に数百年が過ぎたわけじゃが、鼓岩はお姫様のことを思い出すと、心が痛むんじゃろうの、打てば今も  「ポン ポンポンポン」と優しい音を返してくれるんじゃ。
 それは、お姫様や奥方様のご冥福を祈る響に違いないと思うんじゃ。
 
 これで「鼓岩とお姫様」の話は終わりじゃ。
 また次に話すけぇのう。
 (参考~尾道民話伝説研究会発行“尾道の民話・伝説”)

                   千光寺山鼓岩
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