尾道市の民話(拳骨和尚)・7

 むかし、むかしのことじゃ、尾道でものぉ、よう相撲の場所が開かれていたんよ。
 力士にもいろいろあってのぉ、大名お抱え力士からその地方の力士までみんな力自慢ばかりじゃった。
 江戸時代の終わりごろ、尾道で相撲の興行が開かれていたんじゃ。
 その場所での突然「わっはっはっ……」と大きな笑い声がしたんよ。
 丁度立ち上がろうとしていた横綱は、驚いて観客席を怒りの目で見回したんじゃ。
 「誰じゃ大声で笑う奴は」
 「わっはっはっ、怒るな関取、あんたの腰があまりにふらついているんで、つい笑うたまでじゃ」
 と、観客席から又大きな声が戻ってきたんじゃ。
 「何じゃと、天下一強いこの横綱を笑うとはもってのほか、誰じゃ出て来い」
 ますます横綱は怒ったんじゃ。そのとき観客席から、「わしが笑ろうたんじゃ」そういう声とともに六尺近い大男が立ち上がったんよ。
 坊主頭の大男、みんなそれが済法寺の住職物外和尚じゃとすぐ分かったんじゃ。
 「わっはっはっ、まだ怒っているんか、あんたが日本一の横綱というけぇ、どんな横綱かと思うて見にきたんじゃがの、その腰じゃ無理じゃ。この尾道にも少しは力のある者もいるぞ」
 「何、この横綱に勝てる相手がいるものか」
 横綱は満座の中で笑われて、すっかり腹を立ててしもうたんじゃ。
 「じゃあ、その男を連れてこい。この土俵でわしが相手をしてやろう。」
 「こりゃ面白い、その男はわしじゃ」
 そう言うて物外和尚は、一歩前に出たんじゃ。
 「見事相手になってやる。わしの拳骨はきついぞ。この拳骨を横綱の背中で受け止められるかのう。それともその背中が粉みじんになってしまうかのぅ。」
 このようすに、観客たちは気をのまれたのか、静まりかえっていたんよ。
 「よし行くぞ」
 巨体をのそりのそり土俵に運んだ物外和尚の目はハヤブサのようじゃったんじゃ。
 「見事受け止めるか」
 「おお、受けいでなるものか」
 横綱は背を向けて仁王立ちになったんじゃ。和尚は袖をまくり、こぶしを大きく3、4回まわしたんよ。
 力を入れた顔は赤くなり、巨木のようなたくましい腕、観客たちは思わず目をとじたんよ。
 和尚の拳骨が横綱の背中をつぶしてしまう気がしてのぅ。
 「和尚さま、お願いでございます。しばらくお待ちください」飛び出してきたのは行司だったんじゃ。和尚の迫力に行司は恐ろしゅうなったんよ。
 「何、待てとな。今になっては遅い。のいた、のいた」その声に振り返った横綱は、和尚の赤い顔、太い腕、大きな拳骨を見て、アッと恐れ入って手をついたんよ。
 「お許しください。和尚さまの力には参りました」
 でものう、和尚の手は、まだグルグル回っていて、どこかに打ち付けんと止まらんようじゃった。ついに、本堂の表柱に打ち付けて、やっと止まったんじゃ。
 柱はのう、1センチほどもくぼんで、拳骨の型が残ったということじゃ。
 それからは、物外和尚のことを「拳骨和尚」と呼ぶようになったんじゃと。
 これで「拳骨和尚」の話は終わりじゃ。
 (参考~尾道民話伝説研究会発行“尾道の民話・伝説”)
                  済法寺山門
画像

                  済法寺本堂
画像

                 拳骨和尚が持ち上げた手水鉢
画像

          拳骨和尚が背負ったと云われる「背負い石」と「物外和尚の碑」
画像

 

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック