尾道市の民話(岩から抜け出した不動明王)・2

               民話のモデルの岩に刻まれた不動明王
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 瑠璃山(浄土寺山)の頂上近くに大きな岩があるんじゃが、その岩にはノミの跡も鮮やかに不動明王の像が刻まれておるのを知ってるじゃろう。
 その岩は尾道の街が見下ろせる場所にあったんじゃ。
 この不動明王がまだ若うて血気盛んなころの話なんじゃ。
 街の灯がともり始め、賑やかな三味線の音にあわせて歌が聞こえてくると、不動明王ははじっとすることができず、体をムズムズと動かしたと思うと、岩から抜け出すんじゃ。
 なにしろ、身の丈8メートルもあろうかという不動明王じゃけぇ、うんとこどっこい、ひとまたげ
 一つ渡って 浄土寺の谷
 二またぎすれば 勤番所
 も一つまたいで ちょぼが橋
と三またぎもすれば、そこはもう行きつけの飲み屋というぐわいで、ホロ酔い機嫌で帰ってくる毎日を過ごしていたそうじゃ。
 ある月のきれいな夜のことじゃ、不動明王が人目を忍んでほうかむりし、いつものように一またぎした浄土寺の谷で、小さな声を聞いたそうなんじゃ。それはのう、足元に居たお地蔵さんの声じゃったんじゃ。
 お地蔵さんは「不動さま、不動さま、毎晩毎晩ここを通って楽しそうに行きなさるが、いったいどこにお出かけですかいのう」不動明王は「おお、お地蔵さんか、こんな谷間の道端にいたんじゃぁ、街の賑わいもしらずじまいじゃなぁ、よしわしの足の指に乗るんじゃ、今夜はひとつ街へ連れていってやろうよう。」
 さらに不動明王は、地蔵さんを足の指に乗せるとのう、歌をうたうように言うたそうじゃ。
「二またぎすれば勤番所、も一つまたいでちょぼが橋……お地蔵さんや、わしは行きつけの店へ行くけぇ、お前さんもどこかで遊んでけぇや、一時(いっとき)したらちょぼが橋のところで落ち合うて、一緒に帰りゃんしようや。」
 不動明王は、なじみの飲み屋で、一杯のつもりがつい二杯、三杯となって、すっかりいい気分になつたんじや。
「さぁて、そろそろ帰るかのう」と、もうお地蔵さんのことなどまるで忘れてしまって、一またぎ、二またぎ、三またぎと瑠璃の山に帰り、赤い顔をして岩の中におさまったんじゃ。
 一方、こちらは、やっぱり赤い顔をしたお地蔵さんであったが、ちょぼが橋でいくら待っても不動さんが来ないので、これは置いてけぼり食ったかと、千鳥足でぼつぼつ歩いてことにしたんじゃ。
ところが、勤番所のところへさしかかると役人に見つかってしもうたんじゃ。
 「こりやこりゃ、こんな夜更けに酔っ払って通るとは何ものじゃ、この不埒者めが」と地蔵さんの首を一刀のもとにはねてしもうたんじゃ。
 心地よい夜風が岩肌をなでて通り抜けていたんじゃが、その涼風にあたって酔いが少しずつ覚めてきた不動明王は、やっと地蔵さんのことを思い出したんじゃ。
 「お地蔵さん、帰る道も分からず、さぞ難儀をしとるじゃろうのう。早よう迎えに行ってやらん事には…」
 不動明王は、大急ぎで岩から飛び出すと、一またぎ、二またぎ。
 勤番所のところへやって来ると、お地蔵さんの首と胴体が離れ離れになっつているのを見つけたんじゃ。
 「こりゃどうしたことじゃ」
 ふと目を上げると、勤番所の戸板に張り紙がしてあり、「夜中に酔っ払って無断に通行したゆえ、打ち首に処した」と書いてあったんじゃ。
 「これは可哀想なことをした。許してくれやお地蔵さん」
 不動明王はそう言って、地蔵さんの首と胴を足の指に乗せ、浄土寺の谷間へ引き返したんじゃ。
もともとは道端に祀ってあった地蔵さんじゃが、こういう姿じゃ恥ずかしいじゃろうと、路から少し入った草むらの中へ安置したんじゃ。これですっかり酔いのさめた不動明王は、岩の中へすっぽりおさまったんじゃ。
 それからというもの、不動明王はこの岩から抜け出すことは無くなったということじゃ。
 これで「岩から抜け出した不動明王」の話は終わりじゃ。
 (参考~尾道民話伝説研究会発行“尾道の民話・伝説”)
  参照~アルバム「尾道市寺院巡・浄土寺」をどうぞ

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