尾道市の民話(三成の浦島太郎)・1

 昔むかし、水成(三成・ミナリ)に嶋子(シマコ)という若者がいたそうじゃ。
 その若者は大層心根の優しい者じゃったそうなんじゃ。
 近くの山から神棚に供える松を採っちゃあ、玉の浦(尾道)に持って行き、売って商売をして両親を養っていたそうなんじゃあ。
 嶋子は玉の浦に行くたびに浜に出て、龍神さんへの奉(ササゲ)物として松を一本海へ投げ入れて手を合わせていたそうなんじゃあ。
 ある日のこと、いつものように玉の浦の浜に出て、松を投げ入れて拝んどると、突然沖の方からザワザワと大波が押し寄せて来たそうなんじゃあ。嶋子ばビッツクリして身体は動かんようになって、そこへつっ立っとったそうじゃ。
 ところが大波に見えたのは実は、とてつもない大きなサメじゃったそうな。
 そのサメが言うにゃあ「私は龍神様の使いのものです。神棚に供える松をいつも頂いて龍神様は大層お喜びです。私の背中に乗って、どうぞ龍神様のところへおいでください。」とサメが言ったそうなんじゃあ。
 嶋子は逃げることができず、恐る恐るサメの背中に乗って目を瞑ったそうじゃ。
しばらくして目を開けると、目の前に絵を描いたような素晴らしい宮殿があったそうじゃ。といつの間にかサメは姿を消して、嶋子は一人美しい砂の庭に立っていたそうじゃ。
「いったいここはどこなんじゃ」とあたりを見回していると、御殿の中から「今日は婿君が来られる日です」と賑やかな声とともに女の人が出てきたんじゃ。そして嶋子を宮殿の中に誘い入れたんじゃそうじゃ。しばらくすると王と思われる人が、気高く衣装を正して出てきたんじゃ。
 そして「あなたの気持ちに感謝して、サメを迎えにやりました。来てくださってうれしゅうございます。もう怖がることはありません。姫と一緒になって、ここ竜宮での生活を楽しんでください。」と言って、そばの者に嶋子の身なりを整えさせたそうじゃ。
 奥の部屋へ行ってみると、姫は美しく着かざって嶋子を待っていたんじゃ。
 嶋子は「断ったらどんなつらい目にあうんじゃろうか。いや、ここには自分の本当の幸せがあるかも知れん。」と思うと、嶋子は王や姫の気持ちを有難く受けて結婚することにしたんじゃあ。
 しかし、年月が経つと、嶋子は父母のことが思い出され、故郷が懐かしくてたまらなくなったんじゃ。「姫、私は一度故郷に帰ろうと思うじゃが、私のこの幸せを両親に見せて喜ばせてやろうと思っとるんじゃ。また直ぐに戻ってくるけぇ、どうじゃろうか。」
 嶋子の申し出に、姫は大層嘆き悲しんだそうじゃ。「故郷にいらっしゃる御両親様のことは、何一つ心配することはありません。私の父上のはからいで、平和に暮らしていらっしゃいます。もし故郷へお帰りになったら貴方様とは二度と会うことはできないでしょう。どうか故郷へは帰らないで下さい。」
 姫がどんなに引き止めても、嶋子の心は、もう故郷のことだけしか考えていなかったんじゃ。姫は「そうまでおっしゃるなら、私に止める力はありません。これを形見に差し上げます。何事があってもお開けにならないように。」
 姫は固く戒めながら美しい手箱を差し出したそうじゃ。嶋子は手箱を小脇に抱え、嘆き悲しむ姫に背を向けたと思ったら、もとの玉の浦の浜辺に立っていたそうなんじゃ。
 ところが辺りの様子はすっかり変わっていたんじゃ。嶋子はあまりにもの不思議さに、通りすがりの人々に知り合いの消息を聞いたんじゃが、誰一人として知っている者はおらんかったんじゃ。1日中たずね周り、最後のたのみをかけて、一人の老人を呼び止めたんじゃ。「もし、私はこの浦の奥で水成の嶋子と言うんじゃが、つい2.3年前のことじゃが、サメが来て、私をこの世と違った所に連れて行かれ、そこで姫の婿になったんです。」それから今までのことを事細かく話したんじゃ。その話を聞いていた老人は、しげしげと嶋子を見つめて言ったそうじゃ。
 「そうするとあんたは竜宮へ行った人じゃな、私のおじいさんが子供の頃、そのまたおじいさんに聞いたと言うとったが、そのおじいさんも子供の頃、そのまたおじいさんに聞いた言うことじゃ。そうしてみると、あんたが龍宮に行ったのは、十代も昔のことになるのお。龍宮ではこの世の1年は1日のようじゃと聞いとるんで、数百年も経つのも僅かな年月ということになるんじゃろう。」老人も嶋子もお互いの話に驚いたそうじゃ。
 今さら故郷へ行っても昔の面影は全然無いじゃろう。と引き止める老人に別れを告げ、嶋子は不安と期待を胸に、故郷を訪ねたじゃ。と、どうじゃろう老人が言っていたように、知っている人は1人も居らず、まして龍宮に行った人のことなど誰1人として知らんかつたそうなんじゃ。
 嶋子は悲しみをこらえて、以前住んでいたと思われる所に行ってみると、そこに見覚えのある大石があったそうじゃ。「ああ、これは庭にあった大石だ。」嶋子は大石に寄りかかると、姫に貰った箱をじっと見つめていたそうじゃ。
 「こんなに変わってしまった故郷に居ても仕方がないのう、姫のところへ帰ろう。」そう考えて嶋子はそおっと箱を開けたんじゃ。すると箱からスーッと一筋の白い煙が立ち昇り、嶋子の身体は見る見る年老いて、石にもたれたまま死んでしまったそうじゃ。
 あたりの人達は、嶋子の亡骸を大石のそばに埋めて、小さな祠を建て、浦島の社と言い伝えたそうなんじゃ。
 これで水成の浦島の話はおしまいじゃ。
 (参考~尾道民話伝説研究会発行“尾道の民話・伝説”)
  
 

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